January 6, 2026

Press Release

【イベントレポート】住友不動産×AsiaWise法律事務所×Tech Japanが語る「日系企業のインド挑戦」〜事業・人材・制度のリアルと「壁」の乗り越え方〜


「次の成長フロンティア」として世界中から注目を浴びるインド市場。多くの日本企業がそのポテンシャルに熱視線を送る一方で、実際に進出を検討すると、複雑な法制度、商習慣の違い、人材確保、そして現地パートナーとの関係構築といった、いくつもの「見えない壁」が立ちはだかります。


2025年12月7日に開催されたリブライトサミット2025にて、インド・ムンバイに総額約1兆円規模の投資を行う住友不動産、企業のインド法務・税務を支えるAsiaWise法律事務所、そして日印間の高度人材連携を推進するTech Japanの3社が登壇。本セッションでは「事業・人材・制度のリアル」をテーマに、現地で戦う当事者だからこそ語れる“壁”の乗り越え方と、日本企業が持つべき戦略について語りました。

【登壇者】
• 住友不動産株式会社 インド事業本部 インド事業推進部 課長 遠藤 泰治氏
• AsiaWise法律事務所 代表パートナー弁護士 久保 光太郎氏
• Tech Japan株式会社 代表取締役 西山 直隆

 

三者が挑む「インド」の現在地


西山(Tech Japan):
本日のテーマは「日系企業のインド挑戦 ― 事業・人材・制度のリアル」です。インド市場は今や世界中の企業が注目する成長フロンティアですが、実際に進出しようとすると数々の壁に直面します。今日はその壁をどう乗り越えるか、リアルな経験を共有していきたいと思います。

まずは皆さんのインドにおける取り組みについて教えてください。

私はインドのベンガルール(バンガロール)に拠点を置き、Tech Japanという会社を経営しています。日本とインドで「5年間で50万人の人材交流」を行うという政府目標の一翼を担い、インド工科大学(IIT)をはじめとする高度人材と日本企業をつなぐプラットフォームや、インターンシッププログラムを運営しています。


遠藤(住友不動産):
住友不動産の遠藤です。私は以前ムンバイに駐在しており、現在は東京から現地の事業支援を行っています。

当社の海外事業は、ほぼ「インド一点買い」です。これまでにムンバイで5つの物件を取得し、投資総額は約1兆円に上ります。

具体的には、ムンバイのBKC(バンドラ・クルラ・コンプレックス)地区という、東京で言えば丸の内のような高級オフィス街で開発を進めています。また、「ワーリー」という六本木のような職・住・遊が融合したエリアでも、延べ床面積35万坪、六本木ヒルズの1.5倍規模という巨大なプロジェクトを進行中です。


久保(AsiaWise):
AsiaWise法律事務所の久保です。私は2009年に日本の大手法律事務所からのインド派遣第1号としてニューデリーに赴任して以来、長年日本企業のインド進出やトラブル解決を支援してきました。

現在は弁護士だけでなく、税務、リスクマネジメント、労務などの専門家がチームを組み、ワンストップで企業のインド事業をサポートしています。特にコロナ禍以降、インドへの注目度は急上昇しており、現在は企業の新規進出や、すでに進出している企業の現地トラブル対応で非常に忙しくさせていただいています。

 

なぜ今、インドなのか? 都市ごとの「色」を見極める

西山(Tech Japan):
改めてお聞きしたいのですが、なぜ「インド」なのでしょうか? 特に住友不動産さんは1兆円という巨額の投資をされていますが、なぜ首都のデリーではなく、ムンバイを選ばれたのでしょうか。


遠藤(住友不動産):
単純ですが、「市場規模の大きさ」です。オフィス事業の観点で見ると、製造業だけでなく、金融やサービス業が伸びる場所でこそオフィス需要が生まれます。

ムンバイはインドにおける金融の中心地であり、インド企業だけでなく欧米の大手金融機関も集積しています。中国で言えば「北京に対する上海」のような位置づけですね。都心型の高級オフィス需要を狙うなら、ムンバイが最も魅力的だと判断しました。

 

西山(Tech Japan):
なるほど。インドは広大ですから、地域ごとの特性を理解することが重要ですね。首都デリー周辺は製造業が多く、ムンバイは金融とエンターテインメント、そして私がいる南部のベンガルールはIT・テクノロジーのハブになっています。

近年では「GCC(Global Capability Center)」と呼ばれるグローバル企業の開発拠点の半数以上がインドにあり、そうした拠点はベンガルールやハイデラバードに集中していますが、金融系のGCCはムンバイにも増えていますね。


遠藤(住友不動産):
おっしゃる通りです。それに加えてムンバイは富裕層が多く、最もコスモポリタンな街です。新しい商品を売りたい小売業やサービス業の方々にとっても、最初の進出先として適していると思います。


西山(Tech Japan):
久保先生の視点から見て、日本企業の動きはどう変化していますか?


久保(AsiaWise):
かつてはスズキさんやホンダさんに代表される二輪・四輪の製造業が圧倒的でしたが、現在は業種の裾野が広がっています。小売、日本食、サービス業などからの相談が増えていますね。

ただ、インド市場の魅力は分かっていても、事業環境の厳しさから二の足を踏む企業も多い。そうした企業の背中をそっと押し、並走することにやりがいを感じています。

 

インド進出の「罠」──土地とパートナーシップ


西山(Tech Japan):
ここからは、多くの企業が直面する「課題(リアル)」について深掘りしていきましょう。インドビジネスは難しいとよく言われますが、具体的にどんなトラブルが起きるのでしょうか?


久保(AsiaWise):
最初につまずくのは「土地」の問題ですね。インドの国土は日本の約9倍と広大ですが、その大半は農地であり、工業用地への転換が難しい。条件の良い土地には人気が殺到するため、事情を知らない日本企業が悪条件の土地を高値掴みしてしまい、トラブルになるケースが後を絶ちません。


西山(Tech Japan):
住友不動産さんはあれだけの規模の開発をされていますが、土地に関するトラブルはなかったのですか?


遠藤(住友不動産):
「揉めそうな土地には触らない」という判断をしました。私たちが取得したBKCの物件は、政府公社から80年の借地権を受ける形をとっており、権利関係が複雑な民間の土地買収を避けることでリスクを回避しました。正直に言えば、最初の物件としてはリスクを取り切らず、安全な道を選んだともいえます。


久保(AsiaWise):
非常に賢明な判断だと思います。土地の次に来るのが「人」の問題です。特に多いのが、合弁(ジョイントベンチャー)パートナーとのトラブルや、現地従業員の不正による損害です。


西山(Tech Japan):
パートナーシップの話が出ましたが、実は住友不動産さんも私の会社も、現地での事業形態は「独資(100%出資)」なんですよね。住友不動産さんは、なぜ合弁を選ばなかったのでしょうか。


遠藤(住友不動産):
元々、自社でやるという企業文化があることも理由の一つですが、やはり「パートナーに騙されるのが一番たちが悪い」と考えたからです。 設計や許認可申請などの実務においては現地のパートナーと協力しますが、会社そのものは100%自分たちがコントロールできる形にし、経営権を維持することにしました。

 

 

「合弁神話」を疑え。独資という選択肢


西山(Tech Japan):
私も独資でやっています。私が現地に住み込み、創業者として陣頭指揮を執ることで現地に根差した経営をしています。

一般的には「インドは難しいから、現地の強力なパートナーと組むべきだ」と言われますが、久保先生、この点についてどう思われますか?


久保(AsiaWise):
非常に重要なポイントです。「インドは難しい」のは事実です。だから「適切な現地パートナーが必要」というのも正しい。しかし、「だから合弁会社を作らなければならない」と考えるのは論理の飛躍です。


西山(Tech Japan):
論理の飛躍というと?


久保(AsiaWise):
本当にそのパートナーと「合弁会社」という運命共同体になる必要があるのか? と問いたいです。

かつての日本企業は、現地の財閥系企業などとガッチリ組むことを是としてきましたが、それで失敗するケースも多い。自社の強みを活かすために、あえて難しい合弁を選ばず、独資で進出して、現地のスタートアップと緩やかに連携したり、優秀な人材を内部に取り込んだりする方が、現代のインド進出においては成功確率が高い場合もあります。

多くの企業が、事業計画上のリスクをすべて潰してからでないと進出できないと考えがちです。しかし、リスクをゼロにすることは不可能です。それよりも、まずは独資でもいいからスモールスタートで始めてみる。実際に現地に行ってみて、予期せぬ出会いやチャンスを取り込みながら、アジャイル(機敏)に戦略を修正していく「ピボット」の発想が重要ではないでしょうか。

 

 

組織づくりの要諦──「完璧」を目指さず、走りながら変える


西山(Tech Japan):
アジャイルという言葉が出ましたが、これは人材活用においても全く同じことが言えます。

多くの日本企業が、「我が社はまだ英語環境がない」「外国人を採用したことがない」といって躊躇されます。しかし、最初から完璧な受け入れ環境なんて存在しません。楽天やメルカリのような先進的な企業でも、走りながら常に環境を変え続けています。


遠藤(住友不動産):
実は、当社の現在のプロジェクトは「オール日本人、オール日本語」で進めているんですよ。これは極端な例かもしれませんが、自社の強みを発揮できるやり方なら、必ずしも最初から完全にローカライズする必要はないという一つの事例かもしれません。


西山(Tech Japan):
それは勇気が出る話ですね。それぞれの会社のアイデンティティに合わせて、組織の形も柔軟に変えていくべきだと思います。ただ共通して言えるのは、「胆力」と「中長期的な視点」が必要だということです。インド事業は、一朝一夕で結果が出るものではありません。


遠藤(住友不動産):
おっしゃる通りです。私たちのBKCプロジェクトも、2019年に土地を取得して、稼働するのは2026年から2027年頃です。最初から30年、50年、それ以上持ち続ける覚悟でやっています。


久保(AsiaWise):
データを見ても、長く取り組んでいる企業ほど黒字化している傾向があります。かつて赤字続きだった企業も、粘り強く続けた結果、コロナを経て利益が出る体質に変わってきています。

 

最後に:インドに「呼ばれる」タイミング


西山(Tech Japan):
最後に、これからインドを目指す方々へメッセージをお願いします。


遠藤(住友不動産):
実際にやってみて感じるのは、インドのビジネス環境は皆さんが想像するほど日本と変わらないということです。もちろん海外なので実務では英語が必要ですが、そもそも英語が通じるという点でも、東南アジアと比較してビジネスはやりやすいと感じています。パートナーがいなくても自力で戦える環境がありますので、ぜひ多くの日本企業に来ていただきたいです。


久保(AsiaWise):
インドは「伸びしろ」しかありません。ムンバイの洗練された街並み、デリーの首都としての風格、そして地方の圧倒的なエネルギー。まだ日本企業はそのポテンシャルの数パーセントも取り込めていません。

よく「いつインドに行けばいいか?」と聞かれますが、インドには「インドの神様が、その人にとって最善のタイミングで呼んでくださる」という話があります。まだ行ったことがない方は、これからその「最善のタイミング」が来るのだと思います。まずは現地に行ってみてください。


西山(Tech Japan):
私も「グローバルで勝負するならインド一択」だと思っています。2026年は、ぜひ現地に足を運んでほしい。 ネット上の情報だけでなく、実際に現地で熱気と難しさの両方に触れることで、解像度は劇的に上がります。

スタートアップやテクノロジーならベンガルール、金融ならムンバイと、各都市で開催されるイベントに合わせて訪問し、専門家の知見を借りながらリアルな情報を得ていただきたいと思います。

 

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