
2026年6月12日、ナゴヤイノベーターズガレージにて、名古屋市が推進する「高度人材交流支援事業(インディア・ナゴヤ・キャリアコネクト)」のキックオフセミナーが開催されました。テーマは「海外展開と採用戦略の選択肢 〜トップ理工系人材との接点づくりとインド市場展開の可能性〜」です。
本事業は、名古屋市内の企業をインド最高峰大学2校(インド理科大学院、インド工科大学ハイデラバード校)へ派遣し、現地ジョブフェアを通じてインド高度人材との接点をつくる取り組みで、名古屋市からTech Japanが委託を受けて運営しています。今回のセミナーは、そのキックオフイベントとして開催されました。
名古屋市経済局による主催者挨拶では、「インド高度人材の活躍を通じて市内企業の組織力強化や研究開発力の向上、そして海外展開につなげていただきたい。企業説明会の開催だけでなく、準備段階から受け入れ環境の整備まで一貫して伴走支援していきます」と、本事業にかける思いが語られました。
続いて、モデレーターを務めるTech Japanの岡本が開会の挨拶に立ちました。「インドという国は奥深く、様々な可能性を秘めています。本日は人材という側面からその魅力を持ち帰っていただき、このプロジェクトに参加いただける企業様がここから出てきていただければ」と、参加者に呼びかけました。
基調講演では、元丸紅株式会社 執行役員中部支社長の鈴木氏が「なぜ今インドなのか-世界経済におけるインドの位置づけと将来像」というテーマで講演を行いました。
鈴木氏(元丸紅): インドはこの数年でデジタル国家として様変わりしました。国民ID「アーダール(Aadhaar)」の普及率は95%に達し、コロナ禍の給付金は全世帯へ数分で送金完了。青空市場や三輪タクシーでの支払いもQRコード決済が当たり前になり、銀行の与信情報までデジタル化されています。インドは、今やデジタル社会の最前線になっているのです。
日本企業のインドへの姿勢は3つに分かれていると考えます。インドと日本を二本足として経営を成立させ、新卒からインド人を毎年30人採用し、社員食堂にインドカレーが並ぶまでになった「源流派」。様子を見ながらも広大な土地を購入し、大きく動き出す「追随派」。そして技術を伝える職人層の高齢化などを背景になかなか一歩踏み出せずにいる中小企業の「慎重派」です。
安全保障の面でも、対中国という文脈でインドの相対的な優位性は増しています。中間層の拡大による巨大な内需、そして豊富で優秀な理工系人材。特にIT技術者の数では中国を上回るとも言われ、経営とテクノロジーの両方を理解する人材が育っています。
日本は人口減少が続く一方、インドは労働人口が若く市場としても伸び続けています。日本企業にとって、人材確保という一点においても、インドと組まない選択肢はもはやありません。名古屋市の「INDIA-NAGOYA CAREER CONNECT」は、その最初の一歩になるはずです。

続くセミナーでは、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)調査部アジア大洋州課の深津氏が「インド市場の成長性と日本企業のビジネス機会」というテーマで講演を行いました。
深津氏(ジェトロ):IMFの予測では、インドのGDP総額は2027年に日本を上回り、世界4位の経済規模になる見通しです。また2028年にはドイツも抜き、米国、中国に次ぐ世界3位の経済圏になるとされています。実質GDP成長率も直近7%前後の高水準で推移しており、2050年時点でも人口のボリュームゾーンが生産年齢人口にあるという点で、少子高齢化が進む中国とは事情が異なります。
一方で、地域による所得差の大きさも見逃せません。日系企業が集積するデリー準州やマハラシュトラ州の一人当たりGDPは3,000〜5,000ドル程度ですが、人口約1億400万人のビハール州では約600ドルにとどまり、国内でも最大9倍近い開きがあります。進出にあたっては、こうした地域差を踏まえた事業展開エリアの見極めが必要不可欠です。
日系企業の進出数はここ10年ほど約1,400社で横ばいですが、拠点数は2024年時点で約5,205拠点まで増加しており、新規進出よりも既進出企業が事業を拡大するフェーズに入っていると見ています。営業利益で黒字を見込む企業は7割5分を超え、今後1〜2年で事業拡大を志向する企業も8割を超えており、全体として高い期待感がうかがえます。
他方で、輸入やインド国内での販売に際し、政府認可が必要なインド標準規格(BIS)の強制認証の対象品目拡大や、インフレ率を上回るペースで進む人件費の高騰など、進出後ならではの実務的な課題もあります。高度人材ビザで来日するインド人材は2024年時点で約1,400人と、過去6年で倍増しています。真面目さや学習意欲の高さも評価されており、今後さらに存在感が高まっていくのではないでしょうか。

パネルディスカッションでは、実際にインド高度人材の採用・受入を行ってきた2社が登壇しました。
岡本(Tech Japan): インド高度人材との出会いのきっかけと理解の深め方を伺います。
中野氏(高砂電気工業): 2019年、本社に一本の電話がかかってきました。「インドのチェンナイからです、新卒採用はやっていますか」と。ナビサイト経由で直接連絡をくださったのが最初の出会いです。Skypeで面接をすると、終始自分の研究をアピールする熱量に社長も惹かれ、直接会うことのないまま採用を決めました。中国、アメリカと海外展開を重ねてきた当社にとって、「次はインドだ」という方向性を見据えていた中で、このご縁に自然と乗った形です。
岩瀬氏(メイドー): 社内のDX推進で人材が足りず、経済産業省のインターン制度をきっかけに海外人材の受け入れを始めました。最初はメキシコ人材でしたが、高砂電気工業の平谷社長の講演を聞いて、インド人材の層の厚さを知ったことが転機でした。2025年度にインド人材のインターンを受け入れ、今年4月から採用に至っています。

岡本(Tech Japan): インド人材の方と実際に一緒に働いてみて、どんなことを感じていますか?
中野氏(高砂電気工業): フレンドリーさを求められる場面も多く、日本のビジネス感覚では文化の違いに戸惑うこともあります。「謝る」という感覚一つとっても、日本とは異なる前提から丁寧に伝える必要がありました。それでも力強く生きてきた方々だと感じますし、個人として仲良くなれば期待以上の力を発揮してくれる。多少の文化的な違いも織り込みながら、変化を楽しむ姿勢が大事だと思います。
岩瀬氏(メイドー): 受け入れは、もちろん大変な部分もあります。ただビザや住居などの困りごとは、Tech Japan社がサポートしてくれますし、費用面も経産省の支援があります。あとは受け入れる覚悟と方法さえ分かれば、実現したいテーマを託せる仲間になってくれると思います。

名古屋市より、「INDIA-NAGOYA CAREER CONNECT」の事業概要説明も行われました。
吉田氏(名古屋市経済局): 本事業は、市内企業をインド理科大学院とインド工科大学ハイデラバード校へお連れし、ジョブフェアを実施するものです。現地では企業プレゼンテーションや学生とのラウンドテーブル、大学教授陣との交流の場も設け、大学側との関係構築も支援します。

参加いただく8社は「名古屋市公認」としてインドの大学から信頼を得られること、単独では難しい大学との関係構築がしやすくなること、そして事前準備から受け入れ体制まで一貫した支援を受けられることが強みです。参加費は無料で、渡航費・宿泊費のみ各社負担となります。
参加企業の募集は6月19日を期限に行われ、選考を経た8社が9月にインド理科大学院、およびインド工科大学ハイデラバード校でのジョブフェアに臨みます。帰国後は受け入れワークショップなどの伴走支援が続き、2027年1月には成果報告会も予定されています。
実際にインド人材を受け入れている岩瀬氏と中野氏からは、参加を検討する企業へ力強いメッセージが送られました。「受け入れる大変さはあるが、支援を受けながら実現したいテーマを託せる」「違いを楽しむ姿勢があれば、想像以上の力を発揮してくれる」。現場の実感がこもった言葉に、会場からは大きくうなずく姿も見られました。
Tech Japanは、名古屋市企業の採用サポートから受け入れ後のフォローアップまで一体となり、本事業に伴走してまいります。